特集記事

10年顧客戦略

10年顧客戦略

 顧客戦略には、いろいろなゴールの考え方があります。
 今回の特集記事では、10年顧客をゴールにした顧客戦略について、お届けします。なぜ、10年顧客をゴールにするのか、実践事例について、紹介します。

1.10年顧客化と固定客化の違い

「10年顧客」がこれからの店舗ビジネスの中心になる、そんな確信を持っています。なぜなら店舗ビジネスの経営者の皆さんから、こんな声を聞くことが増えているからです。


◇「割引セールをしているのに、最近あまり効かない。売上は上がるが利益が減って費用対効果的に有効なのか、判断が難しくなった。最近、百貨店もセールを縮小している中で、何を自社で進めていくべきなのか…。」

◇「ネット通販も含めて、競合が激しくなってお客様、特に固定客の離脱率が高くなっている。」

◇「ウチのお店は立地的に恵まれているので、新しいお客様を獲得することはできているが、3年前と比べて固定客になってくれる割合が明らかに少なくなっている。」

解決策として「今よりも固定客を育てないと!」そんな結論を出している企業が多いです。「固定客を育てる=固定客化」とは「お客様にはじめて来店してもらって、徐々に関係を深めて固定客に育てて、ずっと通い続けてもらう」ことです。

ただ一足早く「固定客化」を進めている企業も今、本当に困っています。
思った程に固定客が育たないからです。

1-1.「固定客化」にはマンネリ感が漂う

 「固定客化」は日本の市場環境を考えた場合、今後の方向として正しいのですが、経営者・本部スタッフ・現場スタッフも含めて「今までもやっているよね…」という認識になってしまい、結局、基本の徹底等に落ち着いてしまうので固定客が増えません。「固定客化」は正直、マンネリ感があるのです。

 そこで、私がこれからの時代に、店舗ビジネスを成長させるために、大事だと考えるのが、お客様にずっとお店に来てもらう理想として10年という期間を設定することです(なぜ3年でも5年でもなく10年なのかは、あとでお伝えします)。
「新しいお客様を獲得して、徐々に関わりを深めて、固定客に育成して、10年間、固定客で居続けてもらうこと」=「10年顧客戦略」を基盤(プラットフォーム)にすることです。

 10年顧客戦略がお店の現場に浸透すると、現場のスタッフがこんなことを考えてくれます。

◇アパレルショップでは、「10年間通ってもらうには、丁寧な商品説明だけでは難しいかも…、自分もお客様の気持ちになって、そのお客様ならではのコーディネートを丁寧に提案しよう。DMもただ送るだけではなく、そのお客様の前回の来店を思い出してオリジナルコメントを入れてみよう」。

◇街の家電店では、「メーカーから提供されたPOPをそのまま貼っていても他のお店の売場と同じになってしまって10年間通ってくれないのでは…。お店のスタッフが実際に触れた感想、使ってみた感想、他メーカー商品との違いを語ったPOPを付けてみよう。」

◇美容室では「明日は今年1年の髪型について〇〇さん(お客様)と相談してみよう。そのためにこれまでの髪型をカルテで確認して、〇〇さんにあった髪型をシーズンごとに提案しよう。その時々でお客様から希望を聞いて髪を切るだけでは、中々10年間通ってくれないよなあ。」

◇レストランでは「お客様の好きなメニュー、好みの味を覚えて、来店の度に季節のメニューを提案することで、10年間通ってもらえるのでは。明日は○○さんが来る。どんな提案ができるか事前に考えておこう」。

「固定客化」とは明らかに違う現実が現場で現れます。

1-2.固定客化の進化系が「10年顧客戦略」

 「固定客化」を「10年顧客化」という考え方に進化させることで、「固定客化」をあらためて新鮮に捉え直すことができるのです。新しい風景が見えます。今までの日常に風穴をあけることができます。

「固定客化」の延長線上に「10年顧客化」があります。「固定客化」の看板を下ろす訳ではありません。方針を変える訳でもありせん。「10年顧客戦略」に進化させるのです。そうすれば、固定客の数は確実に増えていきます。

これが冒頭で「10年顧客」がこれからの店舗ビジネスの中心になると私が考える理由です。

もちろん、ただ思考しただけではありません。

独立してから、「化粧品店」「アパレルショップ」「バイクショップ」「ビューティーサロン」「美容外科」「インテリア販売」「写真店」「携帯ショップ」「新聞販売店」「ガソリンスタンド」「ショッピングセンター」のコンサルティング・教育をしてきました。

ある大手企業と10年顧客戦略の取り組みを実施しているのですが、2年間で3億を超える売上アップの効果がありました。ある中堅企業が創業3年で100億円企業に成長したベースとして、弊社との10年顧客戦略の取り組みがありました。そんな現実から、これからの店舗ビジネスの中心は「10年顧客戦略」だという結論に至りました。

2.10年顧客とは?

 1では、10年顧客戦略がこれからの時代に成長する店舗ビジネスの中心になること、10年顧客戦略とは「半年・1年・3年・5年・10年にわたってお客様にずっと通い続けてもらい、お客様の数を安定的に増やす仕組み・基盤(プラットフォーム)」であることをお伝えしました。
ただ、肝心の「10年顧客」そのものについては、お話しませんでした。

2では、そもそも「10年顧客」とはどんなお客様なのか、「10年顧客」を活用するとどんなメリットがあるのか、活用しないとどんなデメリットがあるのか、明らかにしていきます。(なぜ3年でも5年でもなく10年なのかは、3で明らかにしていきます。)

私が定義する「10年顧客」は
◇10年間、お店のことがずっと大好きなお客様
◇10年間、お店のことを信頼してくれているお客様
◇10年間、お店に通うことが習慣になったお客様
◇10年間、楽しい日常を過ごす上で、お店が欠かせなくなったお客様
です。

似たような言葉に「リピーター・ファン」があります。
「10年顧客」とどこが違うのか深めることで、「10年顧客」をより明らかにしたいと思います。

10年顧客の具体的な内容として「10年間、お店のことがずっと大好きなお客様」「10年間、お店のことを信頼してくれているお客様」と紹介しましたが、“10年間”を取ってしまえば、リピーター・ファンの意味としても使えるでしょう。したがって、「10年顧客」と「リピーター・ファン」の違いは、“10年間”という時間を明らかにしているかいないかです。

この違いはとても大きいことです。時間を明らかにしていない「リピーター・ファン」は、企業の中で「目指すべき固定客のイメージ」のズレを生み出してしまうからです。

2-1.なぜ「リピーター・ファン」ではダメなのか?

例えば、経営者は「目指すべき固定客のイメージ」を「5年くらい通っているお客様」、ある本部スタッフは「半年くらい通っているお客様」、ある店長は「3年くらい通っているお客様」、あるスタッフは「3回来店したお客様」と考えているかも知れません。

ゴールが違うので、企業として固定客化を強く推進しても一体感が出てきません。そんな現実を数多く見てきました。 本当に多いんです…。「どんな固定客を育てたいのですか?」「目指している固定客の姿はどんな姿ですか?」と質問すると、同じ企業内でも人それぞれ違うことを言う状況です。

そうなると、こんな問題が出てきます。
年初の挨拶で経営者が「固定客を増やす」重要性をいくら熱く語っても、聞いている人によって固定客と聞いて思い浮かべているお客様が違うことになります。理解はできても話がすれ違ってしまうのです。店長が朝礼で固定客のことに触れても同じことが起きています。

もう一つ大きな問題も起きます。
現場が売上至上主義になります。固定客を明確に決めていないので、固定客の人数を数えることができません。数値管理が売上中心になります。固定客を明確に決めていれば、人数を数えることができるので、固定客の数を増やすように店舗運営を進めれば、売上至上主義には陥りません。

時々、経営者の方から「ウチの現場は、売上ばかり考えて…」という方がいますが、それは固定客の人数を数える状況ができていない、その数字を追っていない、評価の対象にしていない、経営側にその原因があります。

2-2.固定客の定義が決まっていても…

もちろん企業の中には、リピーター・ファンを数値で定義づけしている企業もあります。「ウチの企業は1年で8万円以上購入した顧客を目指すべき固定客にしています」「来店回数をベースに最近1年間で10回以上のお客様が固定客です」と決めている企業もありますが、その定義が中々現場に根付いていないので、現実的には「固定客のイメージ」がバラバラになっている場合もよくあります。
決めていても、現場レベルで共有されていなければ、単に本部で現場をマネジメントする時に活用されているだけ(年に1~4回本部が集計する)で、最も大事な顧客接点では、意識されていないことになります。
そんな会社では「一応、固定客の定義は決まっているのですが…」という感じなのが常ですね…。

2-3.まとめ

「10年顧客」は、「目指すべき固定客のイメージ」を10年間という時間で明らかにすることで、企業として固定客化を一体感を持って推進することができます。
10年顧客戦略を導入したある企業では、「10年顧客」が社内のコミュニケーションのキーワードになっています。「10年顧客」が社内の共通言語になることで、企業内の活動に一体感が出てきます。経営者と本部スタッフ、本部スタッフ同志、本部と現場のコミュニケーションが効率的になります。

「リピーター・ファン」ではなく、顧客戦略のリーダーが「10年顧客」と掲げることが、これからの時代に店舗ビジネスを成長させていくために大事なことです。

3.どうして10年なのか?

10年顧客戦略では、文字通り10年間を一つの区切りとして大事にしているのですが、どうして1年ではなく、3年ではなく、5年ではなく、10年なんだろう?と疑問を持った方も多いでしょう。
3ではそれについてお話します。大きく3つの理由があります。

3-1. 1つ目の理由「お客様のライフステージの変化」

まず1つ目の理由は、お客様のライフステージの変化です。人は20年経つとライフステージが大きく変わっている場合が多いです。

・同じ人でも自分が20歳の時と40歳の時では好きなブランドが変わっていることが多いでしょう。私は大学生から27~28歳までマルイさんによく行っていましたが最近は殆ど行かないですね…。

・子供を持つ女性の場合、30歳(子供3歳:幼稚園前)と50歳(子供23歳:社会人)では子育てにかかる時間が大きく変わり、自由になる時間が増えてライフスタイルが変わります。私の母親は45歳を前に仕事をはじめて、行動範囲が広がり、洋服のブランドも変わっていきました。

・男性の場合、35歳と55歳では仕事の役割・地位、年収も変わる場合が多いですよね。自動車、時計といったステイタスを表すブランド、商品を購入するお店は変わることが多いでしょう。

お店がいくら努力しても、お客様のライフステージが大きく変わるので、20年通い続けてもらうことは難しい現実があります。ただ、10年であればライフステージに変化はありつつも、お店の対応・努力でお客様に通い続けてもらえる可能性があります。

ライフステージの変化に伴う引っ越しもお店離れの原因になります。国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、一生涯の内で引っ越しをする回数は、男性が4.5回、女性が4回とのこと。
ということは、平均年齢から逆算すると、平均20年に1度くらいは引っ越しをすることになります。引っ越しをせずに同じ場所にいる20年の中に、10年間お店に通ってもらうことは可能ではないでしょうか。

3-2.2つ目の理由「お店の現場感覚」

続いて2つ目の理由は、お店の「現場感覚」です。
10年顧客と似た言葉に「生涯顧客」という言葉がありますが、一部の高単価商品(自動車・ジュエリー・バイク・高級時計・高級ホテル・高級ブランド等)を扱っているお店を除くと、経験上、お店の現場の皆さんが現実味を感じてくれない、実現をイメージいただけないことが多かったです。ある種、当然とも言えます。

例えば、20代中心のブランドを扱っているアパレルショップでは、生涯顧客は合わないですよね…。基本的には40代のお客様が着られる商品がないですから。ただ10年であれば、10年顧客であれば、お店の現場感覚から納得してもらえます。10年通っているお客様が実際にいて、思い浮かぶからです。

実は、高単価商品を扱っているお店でも、生涯顧客という言葉から、現場の皆さんからファンタジーと捉えられてしまうこともありました。お客様満足(CS)の捉えられ方と少し似ています。「理想的にはそうだけどね…」という感じです。現実とは距離がある形で捉えられてしまうのです。
ただ10年顧客であれば現実的です。ファンタジーと捉えることもありません。実際に高単価商品のお店では、10年間通っているお客様が一定数いるからです。

多くのビジネス、多くの企業では、10年顧客、10年顧客戦略は、理想的でありながら現実的なイメージを現場に持ってもらえます。さまざまな事業・ブランドを展開しているグループ企業でも、グループ統一で10年顧客戦略を顧客・販売戦略の中心に据えることも可能です。

3-3.3つ目の理由「大手チェーンの対抗策」

最後の3つ目の理由は、「大手チェーンの対抗策」です。
大手チェーンが競合の地元企業では、広告宣伝・お店の規模で見劣りするために、売上アップのために、同じお客様に何年もずっと通ってもらう必要があります。そこで10年という大手チェーンでは設定しない長い時間を一区切りとした顧客・販売戦略を進めることが大事です。

10年顧客戦略を進めて企業では、大手チェーンとの差別化に成功し、実績がアップした事実をいくつも目のあたりにしてきました。3年間で顧客数が50%増えた企業もありました。7年後に売上が倍増したお店もありました。

大手チェーンの顧客・販売戦略は、月・四半期・半期・1年で考えられており、会計単位(1年)を跨いで考えることは稀です。実際に顧客分析を詳細に実施している大手チェーンさんに「10年通い続けているお客様は何人ぐらい、いますか」と聞いたことがあるのですが「数えたこと、ありませんね」ということでした。10年という時間軸で考えていないのです。

また、地元企業は、実際、同じお客様に何年もずっとお店に通ってもらうことが得意なことが多いです。10年間通っている馴染みのお客様がよくいます。
ある地元のショップさんでは、10年顧客が8名いて一人当たり10年間合計で1000万円を超える売上をもたらしてくれていました。年間100万円です。すごい金額ですよね…。

そんなお客様を増やしていくことが唯一、大手チェーンが競合の地元企業がこれから成長していく鍵になります。規模と価格という大手チェーンが優位な点を意識しすぎて、思考停止に陥って動けなくなる…。そうならないようにすることが大事です。自分達だからできること・得意なこと、大手チェーンが継続できないこと・苦手なことを大事にする必要があります。「10年顧客戦略」はその一つの答えです。

4.10年顧客戦略、導入の理由

1~3で、「10年顧客」「10年顧客戦略」の基本的な考え方をお伝えしましたが、4ではもっと根本的な部分、どうして私がこれからの店舗ビジネス企業に「10年顧客戦略=半年・1年・3年・5年・10年にわたってお客様にずっと通い続けてもらい、お客様の数を安定的に増やす仕組み・基盤」の導入を進めているのか、その理由をお話したいと思います。

結論から言うと、
「10年顧客戦略」の導入は、「お客様」・「従業員」・「経営者(事業責任者)」、3者の満足度が今よりも増えるからです。
言い換えると、『顧客満足(CS)アップ…今よりも来店する度に楽しい・親身になってくれて嬉しい』、『従業員満足(ES)アップ…仕事の喜び・充実感がアップする』、『経営者満足アップ…売上が安定・アップして利益が伸びる』が実現するからです。

4-1.なぜ3者の満足が実現するかと言うと

1.経営者が自社に「10年顧客戦略」を導入する。
2.従業員が成長して、今よりもお客様が喜ぶ場面が増える。
(→顧客満足(CS)アップ)
3.お客様が喜んでいる姿を見て、働いている従業員の働く喜びが増える。
(→従業員満足(ES)アップ)
4.もっとお客様に喜んでもらいたくなり、従業員の活動が増える。さらにお客様が喜ぶ場面が増える。
(→さらなる顧客満足(CS)アップ、従業員満足(ES)アップ)

5.このようにお客様と従業員の満足が循環すれば、今よりもお客様が育成され、10年顧客が増えるので、売上が安定・アップして利益が伸びて、経営者の喜びも増える。
(→経営者満足アップ)

そんな現実を安定的に創り出せるのが「10年顧客戦略」であり、クライアント様で導入を進めている理由です。

先日、ある企業の経営者の方にお話をお伺いした所、
「10年顧客戦略を導入後、5年経ちますが、継続して取り組んでいます。5年前より売上がアップしているのはもちろん、従業員の仕事の充実感が増して、それが日々の活動の質のアップに繋がっていることが経営者として一番嬉しいです。」とのことでした。

「10年顧客戦略」は、「お客様」・「従業員」・「経営者」という立場が違う3者が同時に「満足(=望みが満ち足りていること)感に包まれる世界」に連れて行ってくれる仕組みであり、基盤(プラットフォーム)です。

「お客様」・「従業員」・「経営者」3者が同時に…という点が本当に大事で、「お客様」・「従業員」・「経営者」に同時に満足感(自分の望みが満ち足りていること)が行き渡らない仕組みは長続きしません。長続きしないことを何度も導入していると、経営者と従業員の信頼関係も揺らいでいきます。

「10年顧客戦略」と対照的なのが「過度なディスカウント」「気合い・根性論」です。「お客様」・「従業員」・「経営者」3者の満足度が今のままで留まります。

4-2.「過度なディスカウント」を実施している場合は…

1.経営者が「過度なディスカウント」を進める。または容認する。
2.価格が下がるのでお客様が喜んで、一時的に売上が上がる。
(→一時的な顧客満足(CS)アップ、一時的な経営者の満足アップ)
3.従業員が成長しないので、その後お客様が喜ぶ場面が増えない。
(→顧客満足(CS)ダウン)
4.半期で締めてみると、思ったほどに利益が出ていない。
商品が定価であまり売れなくなる。
(→経営者満足ダウン)
5.経営者から売上・利益アップの号令がかかる。
(→従業員満足(ES)ダウン)

4-3.「気合い・根性論」で乗り切ろうとする場合

1.経営者もしくはマネージャーが「気合い・根性論」で従業員を鼓舞する。
2.従業員が頑張るので、一時的に売上が上がる。
(→一時的な従業員満足(ES)アップ、一時的な経営者の満足アップ)
3.従業員があまり成長しないので、お客様が喜ぶ場面が安定的に増えない。
(→顧客満足(CS)ダウン)
4.半期で締めてみると、思ったほどに売上が伸びていない。
(→経営者満足ダウン)
5.経営者から売上・利益アップの号令がかかる。
(→従業員満足(ES)ダウン)

「一時的な成果を目指して、一生懸命仕事をして、成果が出る。けども…安定した成果ではないので、再び、一時的な成果を目指して、一生懸命仕事をして…」、こんなサイクルを何度も繰り返すと従業員が疲弊していきます。離職率が高まります。経営者もむなしくなります。お客様は他店に浮気をはじめます。

こんなこと、今よりも少なくしていきませんか?

4-4.まとめ

「お客様」・「従業員」・「経営者」という立場が違う3者が同時に「満足(=望みが満ち足りていること)感に包まれる10年顧客戦略」の世界に、従業員・お客様を連れていけるのは、顧客戦略のリーダーだけです。
当たり前ですが、従業員には10年顧客化は導入できません。そんな権限・力がないからです。
(最後に蛇足ですが…)
経営者を“経営者としての立場を外した一人の人間”と考えて「10年顧客戦略」の導入を考えてみたいと思います。
「お客様」・「従業員」・「経営者(自分自身ですが…)」それぞれが自分の望みが満ち足りている場面を眺めた時、経営者という立場から離れた一人の人間として、深い充実感に浸ることができます。
『自分以外の誰か(お客様・従業員)を今よりも幸せにしたい、それが自分自身の第一の幸せである』そんな想いが強い経営者には「10年顧客」はピッタリです。

5.10年顧客戦略と売上推移

4では、どうしてこれからの店舗ビジネス企業に、「10年顧客戦略=半年・1年・3年・5年・10年にわたってお客様にずっと通い続けてもらい、お客様の数を安定的に増やす仕組み・基盤」が必要なのか、その理由を「1.お客様」・「2.従業員」・「3.経営者(事業責任者)」、3者の満足度が今よりも増えるからとお伝えしました。

5では、特に『3.経営者満足アップ…売上が安定・アップして利益が伸びる』ことについて、具体的な数値を使って明らかにしたいと思います。

「10年顧客戦略」を導入した企業では、「2年間で3億円を超える売上アップ効果」「創業3年で100億円の急成長」「3年間で顧客数が55%アップ」「3年間で売上が38%アップ」等の売上・利益の効果が出ていますが、クライアント様との守秘義務の関係上、これ以上は明らかにできません。

ここでは10年顧客が増えた場合、顧客数にどんな変化が表れるのか、シミュレーションして表していきます。実際にはここまでシンプルではありませんが、10年顧客化を進める大事さを感じてもらえればと思います。

10年顧客戦略と売上推移

A店は10年顧客戦略を進めている企業のある店舗、一方B店は毎日一生懸命取り組んでいるものの、ずっと通い続けてもらうことをあまり意識していない企業のある店舗を想定しています。

5-1.顧客数について

新規オープンして1年目で1000人のお客様を獲得でき、2年目からは新規獲得数が少なくなって、毎年700人の新規顧客が取れているとします。これはA店、B店共通です。

A店は毎年の継続率が40%~80%とします。具体的には、2年目の継続率40%、3年目の継続率は50%、4年目は60%、5年目は70%、6年目以降は80%と、年数を積み重ねる度に、継続率が上がっています。一方B店は毎年の継続率が全て20%とします。

A店では初年度1000人から5年後の段階で288人、10年後には429人顧客数が増えています。一方、B店は初年度1000人から5年以降125人顧客数が減っています。A店とB店では新規顧客の獲得数が同じなのに、A店の顧客数の方が5年目で413人、10年目で554人多くなります。

5-2.売上・利益について

A店の顧客は来店年数を積み重ねているので客単価もアップします。ここでは1年目は客単価30,000円で、年々5%アップしていくとします。B店は新しいお客様の割合が多く、関係が深まっていかないので、客単価が当初の30,000円から変わらないとします。粗利益は共通で30%とします。

そうすると、A店の売上は、初年度3,000万円(粗利益900万円)が、5年後4,700万円(粗利益1,400万円)、10年後6,650万円(粗利益2,000万円)で、売上が10年間で2.2倍になります。一方B店の売上は、初年度3,000万円(粗利益900万円)が、5年後は2,630万円(粗利益790万円)で売上が13%ダウンになります。
A店の5年後4,700万円(粗利益1,400万円)、B店の5年後2,630万円(粗利益790万円)では、粗利益ベースで610万円、約2倍の差が出ています。

ただ、10年顧客戦略には、ニュースレター・ハガキ送付等、それなりの費用がプラスでかかります。

(ニュースレター送付によるプラス費用)
例えば、A店ではB店と違ってニュースレターを年間4回出していたとします。
A店の顧客数1,288人×100円(郵送&印刷代)×年4回=約52万円

(購入お礼ハガキ送付によるプラス費用)
さらに、お客様一人ひとりに、購入お礼ハガキを年間一人3通出したとします。
A店の顧客数1,288人×60円(郵送&印刷代)×年3回=約23万円

両方実施した場合も、実は合計75万円しかかかりません。
その他にプラスで年100万円使ったとしても、
A店とB店の粗利益差は610万円―175万円=435万円です。

もしこのような店舗が複数あった場合、
30店舗ある企業だったら、435万円×30店舗=1億3050万円の粗利益額の差、
100店舗ある企業だったら、435万円×100店舗=4億3500万円の粗利益額の差、
300店舗ある企業だったら、435万円×300店舗=13億050万円の粗利益額の差になります。

企業全体でホームページの改善、顧客管理システムの改善が必要だったとしても、それ以上の余りある粗利益になります。

10年顧客戦略を進める時に「今以上に経費がかかる」ことを渋る企業様もあるのですが、それ以上に利益が出るのです。効率化の推進は、経費削減ではなく、費用対効果で考えることが大事です。

もちろん、費用対効果については各企業によって結果が異なるので、やってみないと見えないこともあります。その場合は実験店を作って検証することをおすすめしています。

5-3.まとめ

5では、10年顧客戦略の導入効果として『3.経営者満足アップ…売上が安定・アップして利益が伸びる』ことについて、具体的な数値をシミュレーションして明らかにしてきました。

「10年顧客戦略=半年・1年・3年・5年・10年にわたってお客様にずっと通い続けてもらい、お客様の数を安定的に増やす仕組み・基盤」は、自社の顧客販売戦略の考え方を変えるだけではなく、利益体質・収益体質を根本から変える重要な取り組みです。

6.アパレルショップの10年顧客(事例①)

10年顧客のお話をする中で「どんな事例がありますか?」と聞かれることがあります。6~8で3つの事例をご紹介したいと思っています。
6ではアパレルショップA社さん(創業120年)の事例です

40代以上の地域の女性に向けて、海外ブランドも含めて最先端のブランド・洋服はもちろん、化粧品販売・エステサービスも行っている会社で、社長が「10年顧客の育て方」を読んで、弊社セミナーに参加いただいたのが、最初の出会いでした。

10年顧客プロジェクトは、「目指している場所の確認」「明日からできる新しい活動の提案」「スムーズな計画‐実践‐振り返り」「活動内容の共有」を通じて進めました。今回のプロジェクトが地域のため、お客様のため、会社のため、そしてスタッフ自身のために取り組んでいることを伝えることを大事にしました。

社長には「10年顧客の社内コミュニケーション(朝礼・毎月の会議等)」を先頭に立って進めていただきました。

6-1.10年顧客が生み出した活動変化

・お客様に10年来てもらうために、洋服を売るというより、お客様の出で立ち・ファッションが良くなるように、コーディネートを提案することで、お客様に新しい気づきを与えることが増えた。自分のコーディネートを相談したくて、自宅にある洋服を持ってきてくれるお客様もいた。

・10年顧客に取り組む前から、レジで購入履歴を見て、接客で活用していたが、10年顧客プロジェクトを機に、顧客台帳作成の取り組みをスタートした。お客様の好みの色・デザイン・素材や、プライベート情報を台帳に細かく記入し、他スタッとも共有した。それによって、コーディネート提案がよりお客様に届くようになった。お客様に役立てることが増えた。

・お客様に10年来てもらうために顧客台帳で顧客のことを深く知っていく中で、顧客への親近感がより湧いた。顧客台帳を見ることでお客様に想いを馳せることができ、次回接客の対応が変わっていることをスタッフ自身が自分で感じることができた。

・店内の奥に休憩スペースを設けた。会計時に商品を包んでいる間に座っていただき、そのシーズンならでは飲み物(甘酒等)をお出しすることで、購入後のコミュニケーションが充実した。

・10年顧客に取り組んでから、誕生日DMのコメントを一人ひとりのお客様に想いを馳せてより丁寧に書くようにした所、お客様の心により届くようになった。反応率もアップし、ある月のDM送付のお客様の来店率は50%(来店客の全員が商品購入)だった。実践したスタッフもお客様と想いが通じていると実感が湧いている。お客様の中には、誕生日DMを自宅の机に置いている人や、スタッフ全員に差し入れを持ってきてくれたお客様もいた。

6-2.A社さんの取り組み全体

10年顧客プロジェクトで「10年ずっと顧客で居続けてもらうには…」を軸に、今すでにできている活動を見つめ直して、現場を改善いただきました。
10年以上来ている顧客(実際、20年顧客、30年顧客もいました。)が数多くいる、創業120年の老舗企業においても、お客様に今から10年来てもらうためにはと考えることで、新しい風を吹かせることができました。
アパレルショップA社さんと10年顧客を進める中で、やはり大事だったのは、考え方を変えることに留まらないで、毎日の活動変化まで行き着くことでした。
そのためには、PDCAを廻していく重要性をあらたて感じたプロジェクトでした。

7.居酒屋チェーンの10年顧客(事例②)

2つ目の事例は、居酒屋チェーンB社さんの事例です。
県下で約30店舗を展開している会社で、社長が「10年顧客セミナー」にご参加いただいたのが、最初の出会いでした。
1年に渡った10年顧客プロジェクトは、「同じお客様に10年ずっと通い続けてもらうために」「10年顧客を“これから”増やしていくために」「10年顧客を“今よりも”増やしていくために、何ができるか」を思考の軸にして、来店からお見送りまでのすべての活動(0.身だしなみ・服装、1.挨拶、2.ご案内、3.注文お伺い、4.料理お届け時、5.お食事中、6.会計/見送り、7.店内装飾、8.ツール活用、9.販促・キャンペーン、10.お掃除)を80点から90点にすることを大事に進めました。

7-1.10年顧客が生み出した活動変化

・お客様が来店した時に、はじめてのお客様、中くらいのお客様、固定客に分けて、挨拶に変化をつけた(「あ!こんばんは」「いつもありがとうございます!」等)。お出迎えの時にお客様から「よろしくね」「お願いしますね」等、言葉をもらえるようになった。スタッフも嬉しくなり、自然に笑顔が増えていった。

・料理・飲み物の提供は早足になっても、テーブルを置くときにスローモーション(1秒間をつくる)を意識した。スタッフのココロが落ち付き、ピークタイムでもお客様・スタッフへの気配り回数が増えた。単純なミスも少なくなった。今まではテーブルに置く時も素早くやっていた。

・食べ終わった料理を下げる時に「空いているお皿を下げてしていいですか?」という言葉と同時に、おしぼりの追加・灰皿の交換も確認するようにしたことにお客様がとても満足してくれた。お客様に親近感が生まれ、和やかな雰囲気になり、会話が増えた。

・お見送りの際に、「ありがとうございました。またお越しください」という定番の言葉の他にプラスで一言「料理はお気に召されましたか?」等、話に入りやすいワードをスタッフみんなで見つけながら進めた。お客様との会話に繋がり、「ありがとう」「ご馳走さま」「おいしかったよ」の言葉をもらえた。この活動を実施する意味を丁寧にアルバイト・パートさんに伝えることで広がっていった。

・10年顧客をキッカケに、人員に余裕がある時はお店から一歩出て、2名(男女)でお見送りをした。キッチンスタッフもお見送りをすることで、料理を作るモチベーションにも繋がった。

・常連様の名前と顔が一致するように、顧客台帳を作成するようにした。いつ、何名で、どこの席で食事したのかを記入、その時の会話内容も書いて、次回来店時の会話に使えるようにした。結果、常連客がお店をより身近に感じて来店頻度が増えた。

・10年顧客に取り組む前は、あるベテランスタッフがスピーディーな作業に終始していたが、10年顧客に取り組むようになって、動作に余裕ができて、お客様との会話も増えて、サービスの力が付いた。

・いろいろな場面で「10年」「10年」と念仏にように口に出して取り組んだ。スタッフに様々なことを説明する時に、「お客様に10年来てもらうにはどうかな?」と10年というワードを入れて話をした。最初は戸惑っていたスタッフも、数ヵ月で段々理解が深まってきて、10年をキーに考える力が付いてきた。

7-2.B社さんの取り組み全体

10年顧客プロジェクトで「10年ずっと顧客で居続けてもらうには…」を軸に、今すでにできている活動を見つめ直して、現場が改善していきました。「目の前にいるお客様にこれから10年来てもらうためには…」と具体的に考えてもらうことがポイントでした。

普通に「ずっと来てもらうためには…」と考えるだけだと、大事なことの確認・活動の確認にはなっても、新しい活動まで行き着かなかったかも知れません。
10年という届きそうで今までのやり方では届かない…そんな視点が新しい活動に繋がったのではと思います。

プロジェクトの中で社長・専務に言われて印象的だったのが「異業種のノウハウはとても新鮮で、現場の活動を変えることに繋がった」「飲食業を小売業・サービス業・法人営業と比べて話してもらうことで、自分達が営んでいる飲食業の良さを客観的に捉えることができた」との言葉でした。

たとえ業種が違っても、10年顧客の思想・考え方・活動ノウハウは応用展開でき、それが新しい気づき、認識になることが分かりました。むしろ業種が違うノウハウの方が、今の現実・過去の成功体験から離れられることができ、新しい現実を生み出すことができると感じたプロジェクトでした。

8.バイクショップの10年顧客(事例③)

3つ目の事例は、バイクショップC社さんの事例です。
C社は、今から15年前に今の社長が2代目として引き継いだ山梨県にあるバイクショップです。2009年からプログラムに参加いただき、3年後、顧客の数が47%アップしました。

どんなプログラムかというと「まず1台目のバイクを購入してもらう。購入後もツーリング、点検・メンテナンス、ニュースレター、SNS等を通じて関係を深めて、2台目のバイクを買ってもらう。さらに関係を深めながら、3台目のバイクを買ってもらう=同じ顧客に3台のバイクを買ってもらう」ことを軸にしたプログラムです。

「はじめてバイクを購入してくれた顧客に、5年後2台目のバイクを買ってもらい、さらに5年後に3台目を買ってもらう」ことを考えると、合計10年間のお付き合いをすることになります。「10年顧客」の原型が生まれたプログラムでした。

「同じお客様に3台のバイクを買ってもらうために」「10年のお付き合いをするために」を思考の軸にして、お客様に向けた活動(1.試乗会、2.接客、3売場、4.コミュニケーションツール、5.点検・メンテナンス、6.ホームページ、7.SNS・メルマガ等)の改善に丁寧に取り組まれています。

8-1.10年顧客が生み出した活動変化

・自店でバイクを購入しお客様を中心に、2ヵ月に1回のニュースレターを9年間、届けています。イベントの報告・案内、店長日記、安全コラム、ニューモデルの紹介、キャンペーン告知をしています。毎号をファイルに綴じているお客様もいるそうです。

・地元の教習所や大手スーパーマーケットとのタイアップイベントも毎年継続的に行い、新しいお客様とバイクの出会い場を創っています。

・定期点検・車検時に、作業中にお客様のバイクの内部をデジカメで撮影し、報告書に入れて渡しています。お客様は「自分のバイクの内部が今、どうなっているのか」気になるので、とても好評だとのことです。

・はじめて来店したお客様と話している中で、あえて他店を紹介して、自店と他店を比べてもらうことにしています。お客様に自分にあったお店を選ぶように促しています。結果的に選ばれています。

・店内のTVにお客様が映し出されたイベント写真を静止画で連続的に映し出しています。TVを見たお客様から「自分も参加できるんですか?」と言われることも多く、新たな参加に繋がっています。

・3年前にホームページをリニューアル。リニューアル前よりも同じお客様と関係を深めていくことを意識したデザイン・内容にしています。ずっと通ってもらうために「お客様にバイクに乗り続けてもらうこと」「ずっと自店に通い続けてもらうこと」を大事になります。その2つの部分がトップページで明らかになっている点が特徴的です。

・メールマガジンを、3ヵ月に2回程度、実施しています。メルマガ登録者350人は、自店ユーザーはもちろん他店ユーザーも多く、毎年行っているオイルキャンペーンは、メルマガ会員限定で実施しており、来店頻度アップに成果が出ています。

・SNSの取り組みも強化しています。2018年5月現在、フェイスブックの友達が612人(1日3回更新)、ブログは毎日更新してアクセス数が1,000人~3,000人、ツイッターのフォロー2,962人、インスタにも取り組んでいます。最近、特にブログの効果が出ているそうです。SNSからホームページのアクセスも増えています。

8-2.C社さんの取り組み全体

「同じお客様に3台のバイクを買ってもらうことを軸に、お客様とお店との関わりを深めていく。結果として売上・販売台数を積み重ねていく」世界に取り組んでいただきました。「シンプルに商品をより多く販売する、1年間の売上目標を達成していく」世界とは角度が違います。
人(お店)と人(お客様)との関わり合いをベースに、お客様に向けた活動を見つめ直していきました。プログラムご参加前からすでにできている活動を改善していく形でした。
人(お客様)の気持ち、自分以外の誰か(お店の店長さん・スタッフさん)がその気持ちを感じ取ろうと想いを馳せることで、関係が深まりました。

8-3.10年顧客が効果をより発揮する業種

C社さんで取り扱っている大型バイクは、とても趣味性が高い商品です。当初は10年顧客との相性はどうなんだろうと考えていましたが、趣味性が高いということは、お客様の関心が高い商品です。お客様も良いお店と永いお付き合いを望んでいました。10年顧客がフィットしました。
高級アパレル、化粧品、エステ、釣り具、ゴルフ等、趣味性が高い商材を扱っている企業に、10年顧客の可能性を強く感じました。

まとめ

いかがでしたか。10年顧客戦略、自社の顧客戦略を考える際のヒントになれば幸いです。自社の商品、業種、展開エリアの事情によって、10年顧客の運用はちょっと難しい部分かもと思われた部分もあったかもしれませんが、顧客戦略において、ゴールの分かりやすさという点で、受け入れていただけるとありがたく思います。

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